「現状維持は衰退だ」。
この言葉、ビジネス書や自己啓発系のセミナーなどで、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
変化を恐れず、挑戦し続けることが成長の鍵。
現状維持を選ぶのは“停滞”であり、“後退”である──
そんな文脈で使われることが多いフレーズです。
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誰もが知る大人物も、こぞってこのことを言い残しています。
ウォルト・ディズニーさんは
「ディズニーランドはいつまでも未完成。 現状維持では後退するばかりだ」と語り、
福沢諭吉さんも
「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」との格言を『学問のすすめ』に書き残し、
松下幸之助さんも
「現状に案ずることは、即、後退につながる」と言い残している、とのこと。
ここまでのビッグネームの方々が口を揃えて言っているということは、「現状維持は衰退」は、どこをどう切っても反論のしようがない真実だと考えざるを得ないということにも思えます。
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しかし最近、私はこの「現状維持は悪」とも言うような主張に反する事態に遭遇し、深く考えさせられました。
その事態とは、私が日常的に使用している地元の私鉄の事故。
電車同士の衝突事故が発生して「路線がほぼ24時間まるまる運休」という事態に陥りました。
私が住むエリアに通っている電車はその私鉄一本のみ。
それが止まったら沿線の人間は万事休す。
足を完全に奪われます。
まさかと思いつつ、現実に起きてしまった「日常の崩壊」でした。
幸い私が使う地元駅は運休区間のいちばん端。
都心へ向かう上り電車は完全に止まっていましたが、逆方向の下り電車にはなんとか乗れた。
そこで地元駅から その「逆方向の電車」に乗って別の路線に乗り換えられる駅まで下り、そこから振替輸送で電車を乗り継いで、大回りして都心の仕事場までたどり着きました。
通常の倍以上の時間をかけて。
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通常の電車事故では、朝の出勤時に遠回り通勤の苦労をしても夜の帰宅時にはなんとか復旧していて、帰路はいつもの経路で帰れていた気もします。
が、今回の事故は甘くなかった。
夜になってもまったく復旧していない。
おかげで帰路も、普段まったく乗らない路線を組み合わせて、自分と同じ帰宅難民があふれてごったがえす混雑の中、へとへとになって地元駅へ行き着くはめとなりました。
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この一日で思い知ったのは「日常があることのありがたさ」でした。
毎朝、何気なく乗っていた電車。定刻に来て、当たり前に動いてくれる。それがどれほど貴重な“現状維持”だったか。
失ってみて、ようやく気づくのです。
世の中には、「現状維持してはダメなこと」ばかりではない。
むしろ、「現状維持してくれているからこそ成り立っているもの」が、いかに多いか。
鉄道会社が 路線の運行を日々変わることなく続けていること。
電力会社が 家や会社のスイッチを入れたらきちんと電気がつかえるようにすること。
どれも“現状維持”のために、不断の努力をしてくれているおかげにほかなりません。
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たまたま思いついたのが上記のようなインフラ系の企業の例でしたが、それに限ることなく「ともすれば現状が維持できなくなり得る状況下で、日々の営みを継続し続けることが大事」という生活や業務はたくさんあるはずです。
それを考えると、「現状維持」は決して怠惰の象徴ではありません。
変化の激しい時代にあっても、守るべき現状を守り抜くこと。
それ自体が、立派な行動であり、価値ある挑戦です。
かく言う私自身、年齢を重ねるにつれ、“現状維持の難しさ”を感じるようになりました。
若い頃には自然にできていたことが、少しずつ億劫になったり、体力的にきつくなったり。
だからこそ、最近は「現状を維持するための努力」を強く意識しています。
なかでも「健康面の現状維持」はとくに大事と感じていることの一つ。
一日一万歩を歩き、毎日のプッシュアップ(腕立て伏せ)を欠かさない。
睡眠時間は8時間を心がけ、体重もほぼ毎日体重計でチェック。
食事もなるべく三食、比較的規則正しく摂るようにしています。
一見「ただの習慣」ですが、これも立派な現状維持活動。

AIに「腕立て伏せをする高齢男性を描いて」といったらこんなのを出してきました。
実在の人に似ないように指定したのだけど、誰かに似てる?
家だって黙っていたらどんどん傷んでくるから、安心かつ快適に住み続けるためには手入れが必要。
私は衣服もすぐに捨てて買い換えることはしません。
ほころびたら可能な場合は針と糸で繕って、本当にダメになるまで着続けます。
これも現状維持の延長線上にあることだと考えています。
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そう考えると「現状維持は衰退だ」という言葉は、やや一面的すぎるかもしれません。
確かに、変化を恐れて何もしない停滞は、衰退を招きます。
でも、放っておけば自然に衰えていくものを、努力して現状維持している人や組織も、たくさんある。
そこで為されているのは まさに 挑戦 です。
さらに言うなら「現状維持を続ける努力」こそが、今の社会に必要な価値ではないでしょうか。
それはまさに、地球規模で大切にされている概念──SDGs(持続可能な)社会──と重なります。
偉大な人たちが唱えてきた「現状維持は衰退だ」を否定するつもりはありません。
ただ一方で、私はこう言いたい。
「現状維持を心がけるのはSDGsだ」
そして、「SDGs」を引き合いに出すだけでない素敵なフレーズをChatGPTが提案してくれました。
「現状維持は挑戦だ」
そう、現状維持って、実はすごく大変なんです。
毎日を同じように過ごすこと。
健康を保ち続けること。
仕事の品質を落とさないこと。
どれも簡単なようでいて、努力なしには続かない。
その努力を、私は怠らないでいきたいと思っています。
*現状維持については昨2024年1月の こちらのコラム でも取り上げさせていただきました。そこで掲載した「現状維持」=Status Quoという名をもった伝説の名バンドの動画(別バージョン)をこちらでも共有させていただきます。